ドイツの新しい通勤費用控除制度について

 

 10月13日(日)に小平市中央公民館で開催された、市民団体「自転車スイスイ」主催・疋田智さん講演会に出掛けてきました。疋田智さんは「自転車通勤で行こう」という著書で知られる自称自転車ツーキニスト、自転車のパーツには滅法詳しいという方でした。
 講演の後の会場からの質問の時間に通勤手当のことが話題になりました。自転車通勤だと通勤手当や労災の面で不利になるのではという質問内容でした。この質問を聞いて私はドイツで通勤手当に関する制度改革が行われていたことを思い出したのです。ただ私は話題としては聞いていたものの、制度内容を詳しくは知らなかったのでその場での発言は控えました。このたび簡単ながら調べましたので、報告いたします。
 新しい制度の名前はEntfernungspauschaleといいます。正式な訳語というものがあるのか分かりませんので、距離一括制度と訳しておきます。この制度を導入するための距離一括制度導入法は2001年1月1日に施行されました。
 この新しい制度について解説しなくてはならないのですが、どうやらそもそもドイツと日本では通勤に掛かる費用の弁済についての考え方が違うようで、日本では勤め先が経費を負担するのが通常かと思いますが、ドイツでは納税する際に通勤に掛かった費用を必要経費として控除させるというやり方のようなのです。勤め先からの手当てが全く無い訳でもなさそうなのですが、これ以上詳しくは分かりません。
 まず新しい制度が導入される前の、0年12月31日までのルールを説明します。
 自宅から職場までの走行に対し、自家用車ではキロメーター当たり0,70DM、オートバイでは0,33DM、そして自転車では0,14DMが税法上の必要経費として計算されました。公共交通機関を利用した場合は、実費が必要経費として控除されました。徒歩通勤の場合は控除はありませんでした。
 それが1年1月1日に導入された距離一括制度の下では、交通手段によらず全ての通勤者(徒歩、自転車、バイク、自動車、バス、鉄道)に対して一律の控除額が適用されます。通勤距離が10kmまでの場合は一キロごとに0,70 DM(2002年1月からは0,36 Euro)、11kmからは一キロごとに0,80 DM(0,40 Euro)の控除額となります。単身赴任者が週末自宅に戻るような場合にも控除がされ、控除額は最初の一キロから0,80 DMです。
 実際に節税できる額は、税率が例えば48,5%の場合、4370DM控除額があるとすると2119DM節約できることになります。
 なお自動車の相乗りをした場合、これまでは一人分しか控除が認められませんでしたが、これからは夫婦などでも一人一人申請が認められるため、相乗りが促進されることになります。
 距離一括制度では、これまでの制度に比べて徒歩、自転車、公共交通機関が圧倒的に有利になるわけです。そのためキリスト教民主同盟/社会同盟などは、これではマイカー通勤者の経費は賄えず、一方公共交通機関の利用者は不当に補助金を貰っているようなものだとして法案に反対しました。
 また遠距離ほど額が大きくなるので人口過疎地に有利になるわけですが、環境保護団体BUNDは、この改正では高い家賃を払って職場に近い所に住み不要な交通需要の発生を抑えている人が不利になり、職住接近という理念が反映されていないと批判し、控除額を徐々に引き下げていくべきだと主張しています。BUNDはまた、納税申告を通した方法では学生などに対しては効果がないという欠点を指摘しています。
 ともあれ法案は社会民主党と緑の党の与党の力で成立したということです。

《「クルマ社会を問い直す会」会報原稿(2002年11月14日執筆)》


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