交通権学会での報告

「ドイツ語圏の三つの交通NGO、スイス交通クラブ、ドイツ交通クラブ、オーストリア交通クラブの活動内容」

                      1999年7月10日土曜日 於:和光大学

報告者:清水真哉 (東京歯科大学講師)

ヨーロッパでは、ここ20年ほどの間に、交通問題に特化した環境NGOが発展してきている。特に有力なスイス交通クラブなどは、すでに20年に及ぶ歴史を有し、13万人もの会員数を誇る。
また、ヨーロッパ各国の交通NGOが連合体を作り、ブリュッセルでロビー活動を行い、ヨーロッパ共同体(EU)の交通政策に対しても影響力を行使し始めている。
また、交通問題一般を取り扱うNGOの他に、サイクリストや鉄道利用者の団体も別に存在して、特性のある活動を展開している。

T.スイス交通クラブの歴史

1974年と1975年に、交通問題に関する4つの住民発案(イニシアティブ)(道路建設決定への住民参加、排ガス規制、日曜日の自動車走行制限、騒音規制)が提出された。しかしこれらは1977年、1978年に議会で否決された。増大する自動車量と、それらが引き起こす問題は、地方レベルで様々な住民闘争を引き起こしていたが、まだ全国的な繋がりはなかった。
一年間の準備期間の後、1979年1月16日、まず「スイス交通財団」(SVS)が設立され、そして5月15日に「スイス交通クラブ」(VCS)が設立された。「交通財団」には環境保護団体が会員となっており、「交通クラブ」には個人、家族、企業が会員となっている。「財団」は理念と目標を長期的に掲げ、「クラブ」がそれを実行する。
「スイス交通クラブ」の設立は大きな反響を呼び、年末には1万2千人の会員を数え、十年後には十万人に達した。うち3分の2はドライバーである。
1997年末には会員13万3千人に達し、93人の職員が働き、年間4千万スイスフランの売り上げがある。

スイス交通クラブに特徴的な交通政策上の課題:トランジット交通。トンネル火災。自動車重量税。

U.「交通と環境のためのヨーロッパ連合」(European Federation for Transport and Environment 略称T&E)

このヨーロッパにおける上部団体は、ブリュッセルに本部を置き、ロビー活動をしているが、この団体には、EUに加盟していない国(スイス、ハンガリー、チェコ、スロヴァキア)の団体も所属している。また、賛助団体として、自然保護団体であるWWFやヨーロッパの鉄道事業者の連合体なども協力している。
T&Eは1989年に設立された。その頃からヨーロッパという次元で、ますます多くの交通政策上の決定が行われるようになり、良くも悪くも、環境の質に強い影響を及ぼすようになっていた。例えば排ガス基準、賦課金、インフラ投資、安全対策、大気衛生規定、規制緩和など。T&Eはヨーロッパにおける交通政策の展開を注意深く見守り、ヨーロッパ委員会のすべての重要な提案や公表に対して態度表明を行っている。この連合の活動はブリュッセルにおいて計画されている。中央ヨーロッパ並びに東ヨーロッパへの連絡は、ブタペストの事務所で行っている。

T&Eは1991年以来、「外部費用の内部化」という課題に集中的に取り組んでいる。1993年には「費用の真実への道」という重要な報告を公刊した。

T&Eが現在取り組んでいる課題と企画:
・トランスヨーロッパ・ネットワーク。
・都市の大気汚染。T&Eは規制値の強化のためにロビー活動を行っている。
・車両の排ガス(自家用車、トラック、飛行機、船舶)。
・自動車の環境および安全性評価(Car Classification)。
・その他、ヨーロッパの物資輸送、航空交通、道路建設の経済性など。

V.ドイツ交通クラブ

1986年7月、緑の党や有力環境保護団体の手によって、ドイツ交通クラブは立ち上げられた。ドイツ交通クラブ(VCD)は、既成の自動車クラブ(日本でいえばJAFのような組織)に対抗するという性格があり、単なる環境保護団体の枠に収まり切れるものではない。ドイツ連邦の16州すべてに(旧東地域も含めて)州組織があり、主要な都市にはまた地域組織がある。

VCDの行っている事業:

@ 保険・サーヴィス事業
JAFが行っているような自動車走行中のパンク修理サーヴィスをしているが、同様のサーヴィスを自転車で旅行をしている人に対しても行っている。また自動車保険、旅行保険のような保険事業も行っている。

A カーシェアリング:カーシェアリングはおよそ十年前に誕生した。現在2万人がドイツで利用している。
カーシェアリングは自動車の共有システムである。加入に際しては出資金を拠出し、出資金は退会するときには返却される。自動車を必要とする会員が本部に電話をすると、一台の車が割り当てられる。自動車はカーシェアリングの組織の所有であり、加入者は利用の度に支払いをする。

B 月刊誌fairkehrやブックレットなどの出版活動。出版社として独立している。

C 委嘱研究:研究の委嘱先、研究のパートナーは様々であるが、例えばöko-Institut (Institut für angewandte ökologie e.V.)。テーマも無論多岐にわたるが、例えば「子供と交通」「環境に配慮した交通体系によって創造される新たな労働市場」。

VCDが行う世論に対する働き掛け:

@ VCDが達成した重要な成果として、BahnCard(鉄道カード)が挙げられる。VCDがはったキャンペーンの結果、ドイツ鉄道(DB)にBahnCardが導入された。BahnCardは、約二万円支払うと、一年間DBの切符を半額で買うことが出来るというものである。この導入に努力したことに対して、VCDはヨーロッパ環境賞を受賞した。

A 自動車環境ランキング(Auto-Umweltliste)。自動車の燃費、排ガス、騒音、また生産段階での環境への負荷といったポイントを評価。

B 3リットルカーキャンペーン。100キロ走るのに必要なガソリンの量を3リットルにまで引き下げようという主旨。連邦環境局に支援された企画の枠内で、エネルギー環境研究所(IFEU)と協力して行っている。

C テンポ30。市内の道路の制限速度を標準で時速30キロとするというキャンペーン。この方針は現政権の連立合意に記載されている。

D 騒音問題NGO、ドイツ騒音対策連合(DAL)と協力して、騒音問題とも取り組んでいる。

E 航空交通への取り組み。日本では航空交通の増大に対する問題意識がほとんど見られないが、VCDは航空交通への補助金の削減、灯油税の導入などを要求している。ハンブルクでVCDが提言してきた政策の一つが実現し、発着料を飛行機の排気量に応じて決めるようにした。

F リニアモーターカーに対する批判。財政的な理由から批判している。

W. 一般ドイツ自転車クラブ

Allgemeiner Deutscher Fahrrad-Club e. V(社団法人)(ADFC)

◇ ADFCの歴史。

自転車のための強力なロビー団体を設立するというアイデアは、1978年の国際自転車・オートバイ見本市の期間中に生まれた。生みの親は、当時51歳のブレーメンの人である交通・企業顧問であるヤン・テッベであった。彼は意を同じくする専門家達に、自動車優先の交通に対して自転車の利益を主張し、自転車に同等の地位が与えられるようにしなくてはならないという考えに同意してもらった。
ドイツの有力環境保護団体BUNDがケルンで開いたシンポジウムも切っ掛けとなった。
さらに既に体系的な自転車促進政策を採り始めていたエアランゲン市の市長ディートマール・ハールヴェーク氏も協力した。しかし、様々な団体を直ちに統合するという風には行かなかった。
翌1979年、18名ほどが集まり、まず準備団体が設立された。定款の草案が定められ、ADFCという名前も決まった。二週間ほどのうちに179名の会員が集まり、西ドイツ各地で活動を開始した。
当時すでに「緑のサイクラー」という団体が活動していたらしいが、テッベ氏は、「彼らは市役所の前でデモをするが、ADFCは市役所の中で交渉をする。」と言った。

同年秋には、ブレーメンで設立総会が開かれ、定款が定められ、ブレーメンで社団法人として登録された。
1986年にはサーヴィス部門が、ADFCが大部分の株を所有する有限会社に移行した。
地方組織も徐々に整備されていき、地域に根差した交通手段である自転車に対するサーヴィスその他の活動が十分になされるようになっていった。
ベルリンの壁が崩壊したあとは、正式な統一がなされる前に、ポツダムに支部を設立することが出来た。
1999年初めには会員数98.400人を数える。

◇ ADFCの自己規定

ADFCは、自転車利用者にとどまらず、徒歩やローラースケートで移動する人のための利益団体である。
ADFCは、自転車産業が生産する全てのものに目を光らせる消費者団体である。
ADFCは、自転車交通の要請の貫徹に取り組む交通政策団体である。
ADFCは、環境団体である。交通手段の選択に関しては、環境という観点から合理的であることを目指している。

◇ ADFCが会員に提供するサーヴィス。
徒歩、自転車や公共交通で出掛けている時の賠償義務。
自転車盗難保険。
自転車旅行をする人への情報提供。

◇ ADFCの要求
・エネルギー税の導入
・テンポ30
・自転車走行者に、歩行者の安全をもっと考慮するように求めている。

◇ ADFCのこれまでの成果

・1989年、ヨーロッパ全域で、トラックに下部走行保護の側面取り付けが導入された。
これにより、右折(左折)中のトラックに自転車が巻き込まれる事故が大幅に減った。

・二年毎にADFCが開催する自転車の品評会(ADFC-Fahrrad des Jahres)は、自転車の技術水準を明らかにするのに功があった。

・交通教育を環境教育の一環として捉えるべきというADFCの要求が、1994年文部大臣会議で取り上げられた。
「自転車交通施設への勧告1995」の中にも、ADFCの考えが反映されている。

・1988年以来、鉄道と自転車の接続に関しても前進を見せた。ADFCと「ドイツ鉄道株式会社」は密接な対話を続けている。自転車の車内持込を廃止するという計画を撤回させた。1989年以降、近郊電車への自転車の無制限の持込が実現した。さらに全てのInterRegio、90本のInterCity、さらにはInterCityExpress乗車の際に、ICTに持ち込むことも可能になった。

・旅行業界との連携も進んでおり、1999年には、ドイツの遠距離自転車道の総目録が完成し、鉄道と自転車の結びつきを更に進めるであろう。

X.ヨーロッパ・サイクリスト連盟 European Cyclists' Federation (ECF)

1983年にヨーロッパレベルでの交通・環境政策における自転車の重要性を認識させるために設立された。
本部ブリュッセル。35正式加盟団体、16提携団体(のべ31カ国)。アメリカ、カナダ、日本など、ヨーロッパ以外の国のサイクリスト団体も加盟している。

Y.プロ・バーン Pro Bahn (「鉄道に賛成する」という程の意味。)

Pro Bahnは、1981年3月28日、ケルンで設立された全国組織である。
そこには鉄道の乗客たちが、自分たちの利益を交通事業者や政治家たちに対して主張するために、集結している。ProBahnの公益性は認識されており、名誉職的に活動している。
現在約五千人の会員がいる。年会費58DM。
Pro BahnはT&Eの会員団体である。
Pro BahnはルクセンブルクのAssociation Luxembourgeoise des Amis des Chemins de Fer(ルクセンブルク鉄道友の会)やPro Bahn Schweiz などと共にPRO BAHN Interregionalという組織を作り広域的に活動している。
地方組織は、州組織と更にその下の地域組織からなる。地域組織が、さらに小さな小グループに分かれている地域さえある。これは公共交通の地域密着性を考えると、活動がいかに具体的な次元で行われているかの証左ともなろう。
本部がミュンヒェンにあることとも関係しているのか、バイエルン州では特に地域組織が充実している。旧東ドイツ地域のいくつかの州にも支部を持つ。
地域毎に、地元の鉄道の問題を考える集会を開いている。

◇ Pro Bahnの要求

1. すべての鉄道路線で、毎日早朝から夜遅くまで、最低一時間に一本の列車を走らせること。

2. 鉄道速度を上げること。車両自体の速度に限らず、信号その他、迅速な運行を妨げる要素を取り除くこと。

3. 鉄道網の拡充。高速鉄道のみならず、近距離路線の延長や、廃線になった路線の再生。

4. 連続した輸送網。鉄道と、市電、地下鉄、バスとの接続がよくなくてはならない。
乗客の少ない地域では乗合タクシーといったものが考慮されなくてはならない。
諸交通機関の時刻表を擦りあわせなくてはならない。
公共交通間の競争はあってはならない。
鉄道と自転車の連結の可能性は改善されなくてはならない。
パーク&ライド施設を建設するために公共交通を犠牲にしてはならない。

5. 旅行の快適さの向上。公共交通手段は、清潔で快適で利用し易くなくてはならない。このことは駅やバスの停留所にも当てはまる。荷物の運搬の便もよくしなくてはならない。

6. 乗車券の購入をし易くすること。

7. 出発時間、乗り換え、運賃などの旅客情報を入手し易くすること。

8. 営業コストの削減によって、旅客運賃を下げること。もちろん、安全性は犠牲にすることなく。

◇ ホルプ鉄道会議
ホルプ鉄道会議は、1983年クルト・ビーレッキによって、ネッカー川沿いの町ホルプで開設された。ビーレッキの死後は、ProBahnが引き継いで運営していくことになる。1999年はおそらく、11月18日から20日まで開催されるであろう。

*** 各団体のホームページ ***

スイス交通クラブ: http://www.vcs-ate.ch

ドイツ交通クラブ: http://www.verkehrsclub-deutschland.de/index2.html

ADFC:http://www.adfc.de/

ECF:http://www.ecf.com/

Pro Bahn:http://www.pro-bahn.de/overview.htm


清水真哉の交通問題

清水真哉のホームページ inserted by FC2 system