<環境税>の議論を! −ドイツ緑の党の提言に学ぶ−

 

 この半年の間に、ドイツでは環境税に関する議論がかなり進んできたように思われる。 先鞭をつけたのはやはり「緑の党」であった。具体的には、ガソリン税を徐々に(一年目は五十プフェニヒ(百分の一マルク)、次年からは三十プフェニヒずつ)上げていき、十年後にはリットルあたり五マルク(約三五〇円)にまでしようという政策を提言したのである。
 リッター五マルクというのはさすがにインパクトが強すぎたようで、与野党を問わず「緑の党」のこの政策提言に対する攻撃が行われるようになった。「緑の党」自体の中からも、とりわけ東部地域からは躊躇する声が出てきた。そのため「緑の党」は党勢を落とし、四月末のザクセン−アンハルト州の州議会選挙では、それまでは社会民主党と連立を組む与党であったにもかかわらず、議会入りするためには五%の得票をしなくてはいけないという条項をクリアできず、三.二%にとどまり、州議会から撤退するまでに至った。

 だがこの結果だけをもって、「緑の党」が敗北したと見るのは早計にすぎよう。
 この議会選挙の前には、激しい論戦やキャンペーンが行われ、マスコミも頻繁にこの問題をとり上げた。つまり「緑の党」は環境税の問題を、国民の関心事とし、選挙の重要な争点とすることに成功したのである。
 それだけではない。他党の政治家も環境税の問題を真面目に取り上げるようになり、各党の政策にもそれが反映されはじめてきている。
 そもそも「緑の党」が環境税を主張することの最大の趣旨は、二酸化炭素など環境に負荷を与える排出物を削減することであった。またリッター五マルクという価格が、そのままドライバーの負担となることを意図した訳ではなく、自動車会社が燃費を大幅に向上させることによって、ドライバーの実質負担増はさほど増えないで済むという計算もなされている。

 それに対して、他の政党は、それぞれの政策的課題に絡める形で、環境税導入の余地を示している。
 「社会民主党(SPD)」のある政治家は、社会保障費の国民負担を増大させる代わりに、石油税を上げることを検討してもよいと表明した。
 また与党である「キリスト教民主同盟(CDU)」や「キリスト教社会同盟(CSU)」にも、所得税の税率を引き下げる代わりに、環境税を導入しようと考える政治家がではじめて、党内での議論がはじまっている。CSUの環境部会は、大量廃棄、大量失業の時代には、労働に課税をするのではなく、資源の消費に課税すべきだとする立場を取っている。ただ与党では、環境税の導入は、ヨーロッパ全体で行われないと、ドイツの産業の競争力を削ぐことになるので、ドイツ単独では行わないと言っている。さらには政府からも、ヨーロッパ全体でのエネルギー税の導入は不可避であるとする声が聞こえはじめている。
 「緑の党」の方からも、一リッターあたり三マルク(約二一〇円)という歩み寄りの数値が提議されたりしており、遠くない将来に、石油税の大幅引き上げが実現する気配が感じられる。
 こうした流れを勘案すると、「緑の党」は一州の選挙で敗北しはしたが、全体の流れとして、自らの政治目標に大きく前進していったという評価が出来るのではなかろうか。
 多少の傷は覚悟のうえで論戦を仕掛け、国内の議論を前進させていくという積極的な政治手法は、長期的な展望を持つ政党であればこそ可能なのであろう。

 さて、日本国内の税制改革の議論をみると、法人税、所得税の最高税率を引き下げて消費税を上げるという、いわゆる直間比率の見直しは国際的な流れであるという議論はあっても、環境税の導入という、もう一つの世界的傾向に着目する意見はなかなか聞かれない。
 地球温暖化防止京都会議の議定書を実現していくためには、現在政府が考えているような施策で、十分であるとは到底思われない。
 化石燃料の消費を削減していくことは地球的な課題であり、ヨーロッパにだけ先行させていていいというものではなかろう。そのために環境税の導入は避けて通れない課題と言えるのではないか。
 日本の市民運動にも環境税の議論を積極的に仕掛けていくべき時がやってきているのではなかろうか。

1998年執筆ACT紙第七十七号掲載


清水真哉の環境問題

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