ドイツ緑の党は今回の政権参加で何を目指しているのか

 

 ドイツの総選挙(1998年)で社会民主党(SPD)が事前の予想通りの勝利を収めた。現与党との大連立も取り沙汰されていたが、社民党が緑の党を選んだのは、緑の党と合わせれば過半数に届く以上、当然の選択であろう。緑の党にとっては、得票率で七.三%から六.七%に落ち、議席数で四十九から四十七に二議席減らしたにも関わらず、政権参加への道が開かれたのは、連立政治の妙と言うべきか。そして今、連立交渉の最中であるが、一日一テーマ、たっぷり三週間近くもかけて行われる交渉には、政治というものの重みを感じさせられる。

[失業対策と環境税]
 連立内閣最大のテーマは何といっても失業問題であろう。東西融和の問題も、東部地域に不満を鬱積させている最大の原因が、東で際だって高い失業率にあることを考えれば、今のドイツ政治の喫緊の課題は、否応なしに雇用の創出ということになる。緑の党も選挙戦の段階から、失業問題を政策課題の筆頭に挙げてきたが、同党の雇用対策の根幹は、雇用に際する社会保障などの付随費用を削減することや、所得税率の引き下げによって、企業が人を雇い易くすることにある。この政策のためには当然それなりの財源が必要なわけであるが、緑の党はそこに環境税による収入を当てこんでいる。現在の厳しい雇用情勢を改善できるだけの抜本的税制改革をおこなうには、環境税は包括的なものでなければならず、産業界の抵抗がいよいよ大きくなることは予期せざるを得ない。他にこれといった雇用対策のない両党にとって、環境税で雇用対策をするという一石二鳥の「緑の方程式」の成否が、連立政権の命運をになうことにもなる。緑の党に勇気を与えているのは、いまオランダで失業率が減っているのは、環境税導入の成果が現れたのだとする見解である。連立交渉の現段階では、ガソリン税はリットル当たり六プフェニヒ(約四円二十銭)値上げし、雇用にかかる付随経費は四十二.三%から四十%に引き下げられることになっている。

[脱原発はいつ?]
 日本の環境保護派が何より待ち望んでいるのは、ドイツが脱原発路線を取り始めたというニュースではなかろうか。しかしそれにも課題は多い。緑の党は、五年以内に全ての原発を停止しようとしているが、その場合には電力会社から損害賠償を請求されかねない。社民党は電力業界と折り合いのつく範囲で、徐々に原発への依存を減らしていこうとしている。電力業界に保証金を支払う必要のない範囲での妥協が図られそうであるが、すると今度は原子炉の即時停止を求める環境保護派からの突き上げが待っている。

[他の諸課題]
 緑の党の環境政策では他に、速度制限のないことで知られるアウトバーンに速度制限を導入することも入っているが、これは国民の間で最も受けの悪い政策となるであろう。他にも日本の交通政策にも関わりの深いこととしては、リニアモーターカーの建設取り止め問題や、三リットルカー(百キロ走るのに必要なガソリン量が三リットル)の導入促進問題がある。環境政策以外で重要なのは、ドイツに長期居住している外国人に、ドイツの市民権を与える問題で、これまでの政権の方針から大きな前進を見せるはずである。
 東西統一から八年、統一事業に精力を割かれていたためか、ドイツは欧州内での環境政策トップ集団から脱落し始めていたと言われる。しかし赤緑連立が始動すれば、ドイツの環境政治から再び目が離せなくなるだろう。

1998年執筆ACT紙掲載


しかしそれにしても、本紙の第七十七号で、「遠くない将来に石油税〜が実現する気配が感じられる。」と書いた時にも、まさかこれほど首尾よく事が運ぶとは予想しきれなかった。日本でも、失業率が急激に上昇しつつある中、所得税を引き下げて、環境税を導入することが議論されるようになるだろう。


清水真哉の環境問題

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