2003年10月26日
「駅と自転車シンポジウム」於:船橋市立葛飾公民館
発言者:清水真哉

 

駅と自転車

 

 今日、自転車についてお話をすることになりました。
 最近、交通について話題にされることが多くなったのには理由があります。
 それは戦後、一貫して続いてきたモータリゼーションの流れが限界に来たということです。大気汚染、地球温暖化、高齢化社会の進展、交通渋滞、どの問題をとっても、もはやこれ以上クルマと道路を増やしていくということには無理があると悟らざるを得なくなっている訳です。
 ですから人々が交通について考え始めたといっても、その目標ははっきりしています。それはクルマをどうやって減らしていくか、その代わりとなる交通手段をどういう形で確保するかという一点です。
 パーソントリップ調査というものがあります。ものの説明によると「パーソントリップとは、「人(パーソン)の動き(トリップ)」を意味します。パーソントリップ調査は、「どのような人が」「いつ」「何の目的で」「どこから」「どこへ」「どのような交通手段で」動いたかについて調査し、1日のすべての動きを捉えるものです。」とあります。
 この交通手段のうち自家用車の分担率を下げ、他の交通モードに誘導することが、これからの時代の交通政策の目的となります。
 自家用車の代わりとなる交通手段には主として、鉄道、路面電車、バスなどの公共交通機関と自転車があります。私は公共交通機関については全国鉄道利用者会議という団体で活動しております。今日は自転車についてお話をさせて頂く訳ですが、自動車の分担率を下げるには、公共交通機関だけでも自転車だけでもなく、両方がそれぞれの強みを発揮する形で、さらには両者を連携させる形で整備していくことが必要だと思います。

 本日のテーマは「駅と自転車」ということですので、いわゆる駅の放置自転車問題から入りたいと思います。
 私は駅の駐輪問題の対策には次の四つあると思っています。
1)駐輪場の整備
2)バスの充実
3)鉄道への自転車の積み込みを認める
4)自転車のdoor to doorの利用を増やす
 まず自転車駐車場、いわゆる駐輪場の整備の問題から始めます。
 ドイツのミュンスターという町は、ドイツでももっとも自転車利用が進んだ町として知られていますが、ミュンスターの駅前には巨大な地下駐輪場があり、疋田智さんの「自転車生活の愉しみ」東京書籍という本でも紹介されています。
 ところが最近、船橋駅の南口でも再開発に伴い地下駐輪場ができました。概要は収容台数1400台(収容能力にはまだ余裕がある)、料金24時間100円、回数券35枚3150円、利用時間は6:00〜24:00。階段に自転車用昇りベルトコンベアがあります。
 夜の12時までということですが、終電はそれより遅くまであり、帰ってきたら駐輪場が閉まっていて困ったという人はいないのでしょうか。また朝も始発はもっと早くから動いています。
 ミュンスターの地下駐輪場との比較をしてみますと、ミュンスターの駐輪場にはレンタサイクル、修理工場、洗車機などもあり、自転車総合サービスセンターとして機能しています。船橋もテナントで自転車屋を入れてみたりしてはどうでしょうか。貸し自転車もぜひ始めてみて欲しいものです。
 そういう訳で船橋駅の南口は良くなったのですが、北口はご存知のように歩道上の駐輪が多くて歩き難く、惨たる有り様です。北口の地下には地下二階の駐車場があるのですが、地下二階まであるうちの一階部分は駐輪場にするべきと考えます。
 ついでに言わせて頂きますと、この北口はバリアフリーという観点からしても、あまりにも劣悪です。最悪のまちづくり例です。最大の癌はあのペデストリアンデッキで、津田沼駅は駅の改札が二階にあるのでそのままペデストリアンデッキに続く訳ですが、船橋駅は改札が地上階にあるのにバスに乗るために一度このペデストリアンデッキの上に登ってから降りなくてはならないのです。これはまさに巨大な障害物と言うしかありません。駅の改札から平面移動だけでバスに乗れるように改造すべきです。そうしないとノンステップバスなどを導入しても何の意味もありません。
 また改築するまでの間もとりあえず、少なくともバスの時刻表をデッキの上にも置くなど、不要な上下移動が少しでも減るよう、工夫すべきです。

 駐輪対策第二のポイントは、駅を中心としたバス網の充実です。私は、今、駅まで自転車で通っている人の中には、バスが不便なので止む無くそうしている人が少なからずいるのではないかと踏んでいます。
 とりわけ終バスを遅くすることを求めたいと思います。行きはバスに乗っても、遅く帰宅する度にタクシーになるというのでは経済的に辛い、すると帰りの足を確保するために勢い行きから自転車に乗るということになります。夜間のバスの充実は、昼の利用客数にも影響してくると思います。
 また昼間のバスの本数の少なさも、不本意ながら自転車で駅に行く人を増やす要因ではないかと思います。
 つまり駅の乱雑な駐輪の背景には、バスと自転車の役割分担が適切になされていないという問題があるのではないかと思います。
 ところで西船橋駅でバスの運行状況を調べてみたら、西船橋から行田団地行きで深夜バスが走り始めていました。深夜バスの運行はタクシー会社から嫌われるかも知れませんが、更に他の路線でも充実させていくべきと思います。

 駅の駐輪対策の三つ目のポイントは、鉄道への自転車の積み込みを認め、積極的に促進することです。駅に自転車を停めずに、車内に持ち込んだ上で最終目的地まで乗っていくことが出来れば、駅前の駐輪が減るばかりか、自転車と公共交通が協力することで自動車の利用者を減らすことにつながると思います。
 都市部の混雑した車内やホームでは無理と思われるかも知れませんが、曜日や時間帯を限定する、午前中は下り電車、午後は上り電車に制限する、専用の車両を連結するなど、やる気さえあれば工夫の余地はあるでしょう。

 駅の駐輪対策、四つ目のポイントはいわゆるdoor to doorの利用を増やすことです。自転車で駅まで行き、あとは鉄道に乗ってどこかへ出掛けるというのではなく、家から目的地まで直接自転車で行く人・機会を増やすということです。そのためには自転車の行動半径を大幅に拡大する必要があります。
 それには二つのポイントがあると思います。一つは自転車の最高速度を上げ、かつ走行持続距離を伸ばすこと。もう一つは専用の走行空間を確保することです。
 一つ目の自転車のハードとしての走行能力を高めるというのは、私の領域とするテーマではありません。先ほど挙げた疋田智さんの著書をお読みになって頂きたいのですが、いわゆるママチャリは最高速度・走行持続距離といったことに重点を置いて設計されておらず、もっと性能の高い自転車に乗ると、ママチャリに慣れた人には意外なほどスピードが出て、また疲れずに長距離を走れるのだということです。
 しかし皆が必ずしもスピードの出る自転車を欲さないのは、実際にスピードを出せる道が存在しないからだと思います。
 なぜクルマは早いのでしょうか。クルマにはエンジンという動力がついているからだと皆さんお考えでしょう。それは勿論そうです。しかしそれと並んで重要なのは、クルマには専用の車線が確保されているからなのです。
 自転車は潜在能力を発揮していません。歩道を走らされているからです。本来は軽車両として車道を走っていいはずなのですが、現実問題として怖くて走れない。仕方なく歩行者に遠慮しつつ歩道を走ることになる。これではスピードが出せないのは当たり前です。頻繁にブレーキを掛けなくてはならないというのは大変なエネルギーのロスで、疲れて遠くまで行けなくなることになります。
 自転車にも平等に専用の走行空間を確保することをもっと声を上げて要求する必要があります。
 しかし現実問題、あちらにもこちらにも自転車のための道や車線を確保することには難しいものがあります。
 先ほど最高速度という言葉を使いましたが、鉄道には表定速度という概念があります。それは出発地から目的地まで、駅や信号での停車時間も含めての平均速度を意味します。自転車についても最高速度を上げるとともに、この表定速度を上げることを具体的に考えることが実際的な問題の改善につながると思います。
 そのためにはドイツの新幹線の整備方式の考えを取り入れるのが良いと思います。日本の新幹線建設は、始めから最後まで専用の新幹線の線路を建設しますが、ドイツでは線形が悪く、かつ需要つまり走行本数が多い区間にだけ新幹線専用の軌道を整備し、それ以外の区間では新幹線の車両が在来線の線路を走ります。
 日本での自転車道の整備もドイツの新幹線整備と同じような考えで進めるしかないと思います。どこにもここにも自転車専用の道を作ることなど出来るはずがありません。しかし目的地に着くまでの間の一定区間だけでも相当のスピードで走ることの出来る道が整備されていれば、全体としての所要時間を短縮できる、言い方を変えると自転車の表定速度を上げることが出来ます。

 では行田団地を出発地に自転車道をどう整備したらよいか考えてみたいと思います。
 いきなり失礼なことを申しますが、私は個人的には行田団地はあまり住みたくなるところではありません。私は車は所有しない代わりに、できるだけ鉄道駅に近い所に住むことにしています。車の維持管理に掛かるお金を住居費に回せば、その分駅に近い所に住めます。駅までバスに乗らなくてはならないとは私にとっては煩わしい事です。
 住宅行政を行う側は、無駄な交通需要を発生させないために、出来るだけ駅に近い所で住宅開発をすべきと思います。しかし、鉄道駅から遠い不便なところに宅地開発をしたのには、きっと理由があったのでしょう。
 インターネットで行田団地について調べてみたところ、行田団地の完成年月は昭和51年3月〜昭和53年3月頃。そして行田地区については次のような興味深い歴史を知りました。
「皆様の目に、船橋市行田団地の地図はどう映りますか?団地を囲む環状の道路にイワクありげな歴史を感じられたら敏感です。行田地区は、旧海軍の無線塔が林立していた重要軍事通信拠点だった。厳重警備の直径800メートルの基地境界線がミステリーサークルの起源である。1914年に活動を開始した行田の無線塔は、第2次大戦終結まで長崎県針尾島の無線塔とともに幾多の重要暗号を受信・発信してきた。なかでも有名なのが真株湾闇討ち指令の「ニイタカヤマノボレ」であろう。戦後、占領軍に接収され、1971年に撤去されるまで旧軍の遺物として丘陵地帯の風景に異彩を加えていた。」
 つまり海軍跡地にまとまった土地が安く入手できたので、そこで住宅開発をすることにしたのでしょう。
 ところで実は地図を見ると行田団地は武蔵野線の線路に非常に近い所に立地しています。なぜ宅地開発と同時に鉄道駅を設置しなかったのでしょうか。私は今からでも武蔵野線に行田駅を造るべきだと思います。千葉県や船橋市、JRに対して働きかけをするべきです。船橋法典駅に近過ぎると言われるかも知れませんが、京成線や東武野田線ではその位の駅間距離の所はいくらでもあります。

 本題に戻ります。行田団地から行きたい目的地としてはまず船橋駅が挙げられます。東武や西武デパート、イトーヨーカドーで買い物をしたい、総武線の快速で出掛けたいなど、強い需要が予想されます。私の知る限り、船橋駅へ行く路線バスはありません。ならば自転車で行きたいという人はきっと多いはずです。
 こう考えた私は先日、船橋駅から行田団地まで徒歩で往復してみて、道路事情を見てみました。
 行田団地の真ん中の大通りは恐らく団地造成と同時に出来た新しい道で、片側二車線となっています。国土交通省の方針では、今後このような新しい道を作る場合は、自転車の走行スペースを確保することとなっています。しかしここは今からでも一車線をバスの専用車線とし、そこは自転車も走ってよいと規定するべきです。バスと自転車の専用車線とするのです。
 この視察での最大の発見は、東武野田線が高架になっていて、高架下が利用されていないことでした。この高架下を自転車道として活用することは出来ないのでしょうか。さすがに船橋駅の近くになると駐車場、駐輪場として利用されていますが、途中まででも自転車道に利用できれば素晴らしいことだと思いました。何しろ高架下は、風とともに自転車の敵である雨から自転車走行者を守ってくれるのですから。高架下の利用権などの問題はあるかも知れませんが、ぜひどなたか取り組んで頂きたいテーマと思いました。少なくとも皆様、私のこのアイディアが実現可能かどうか、ぜひご自分の目で確かめてみて下さい。

 次に提案したいことは、江戸川区、市川市、船橋市、習志野市、千葉市へと到る京葉地区に自転車のための大動脈「京葉高速自転車道」を造るということです。それを京葉道路沿いに建設します。
 ご存知のように千葉街道は狭く、自転車では大変走り辛いです。千葉街道のような道では車道の自転車走行を推薦しない代わりに、並行する道路などで「自転車優先道路」の設定をするのがクルマと自転車の公平な取り扱いだと思います。
 なぜ京葉道路沿いなのかと言いますと、そこでは歩行者の飛び出しがないからスピードが出せるためです。またかなりの延長に渡って、あまり自動車の走っていない道路が既に存在しています。ただし道路のない部分、橋を架けるべき河川・用水、インターチェンジがあるため大掛かりな工事が必要な箇所もあり、野田線の高架下のようにさほど投資を必要としない自転車道とは異なり、国や県も巻き込んだ本格的な予算措置が必要になると思います。しかし今や自転車のためにそれだけの事をしてもよい時代に入っていると私は考えています。
 「京葉高速自転車道」が出来れば、船橋市役所にも「ららぽーと」にも船橋競馬場にも谷津干潟にも自転車で行けるようになります。うまく延長すれば、幕張メッセやマリンスタジアムも十分自転車で行ける圏内となります。行田団地からマリンスタジアムまで10km強として、時速10kmで一時間、20kmで三十分、まあ40分あれば行くでしょう。
 条件は安全で安心してスピードの出せる道を整備し、行き先案内板もしっかり設置することです。予算が許せばルーフ付きの自転車道にしても良いかもしれません。

 その他、川沿いも自転車道を整備するには適しており、千葉市には花見川自転車道がありますが、海老川(船橋市)自転車道や真間川(市川市)自転車道といったものも検討に値すると思います。
 また船橋海浜公園、三番瀬(東京湾に残る数少ない干潟)に行くサイクリングロードの整備なども市に要望してみていいのではないでしょうか。

 以上で本日の私の発表を終わりにさせて頂きます。


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