私の愛用した料理本

 

檀 一雄『檀流クッキング』中公文庫

 この本はただの料理本を超えている。檀一雄にとって料理することと生きることとは表裏一体となっていたかのようである。それは檀が料理を始めるに至った契機となる人生の一大事からまさに決定付けられたのだと思う。その出来事についてはこの本を読んで下さい。
 『檀流クッキング』が料理本として有用である所以は、凡庸な料理研究家達の書く本と違って、無意味に手を凝らしていないことにある。食材をおいしく食べることの本質にのみ迫り、無駄なことはしない。それは檀が料理に工夫するためにではなく、生きるために料理してきたからであろう。
 郷土料理というものは大体このように、本質からのみ成り立った料理法で作られる。だから希代の旅行家である檀が紹介する料理は、日本各地、そして世界各地の郷土料理が多い。
 作家であるから当たり前のことかもしれないが、料理以前に文章に味がある。名著と思う。


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